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『ドリームキャスト』第5話 夢のツヅキハ

更新日:2021.06.02
西園寺公文の連続小説『ドリームキャスト』

「悩んでいるぐらいなら、この仕事を受けてくれたっていいんじゃないのか」


康介の脳内に、舞島宗史朗の声がこだまする。
康介自身、何が起きているのか全く分からなかった。


自身が気でも触れたのかと思い、右手で左腕の内側を強くつねったりもしたが、脳内にこだますることは収まることを知れず、今まで聞いたことのない若者の声がこだますることに、康介は恐怖さえ覚えるようになっていた。

「驚かせて済まない…自分でも何が起きているのか、わからないんだ」

 


康介の脳内に、舞島宗史朗の声が再び聞こえてくる。


「オマエは、本当に舞島宗史朗なのか!」

事態を何とか受け止めようと、康介は必死になって言葉を紡いだ。こんな真夜中に、大きな声を上げて…自分が変人扱いされてもいい、今何が起きているのかを納得したい、その一心で叫んだのだ。

「…そうだ。僕は舞島宗史朗…君が持っている、その薄汚れた大学ノートの持ち主だ」

ならば話が早い…康介は今起きている事実を“現実”として受け止める決心をした。そのうえで、自らの脳内から舞島宗史朗に語り掛けることを決意した。

 

「この大学ノート、お前が実現したかった映画のシナリオってのは、本当か」
「…本当だ。それを両親に反対された」
「反対…それは何か、大企業の御曹司が映画みたいな道楽に興じることを反対された、ということか」
「まあ…そうだ」
「違うな」
「…なんだって」
「オマエは俺にうそをついている…オマエが真実を語ろうとしない限り、俺はお前のために動く気にはならない」
「僕が、うそをついているだって、何を根拠に!」


舞島宗史朗の心音を奏でる電子音が、急にペースを上げている。
ああ、これは本当に今起きていることなのだな…康介の疑念は徐々に確信に変わっていいた。俺は気が触れているわけじゃない、これは何かの現象なのだ。

 

「君、僕が嘘をついているとはどういうことだ、説明してもらいたい!」


舞島宗史朗は、先ほどとはうって変わり、感情をむき出しにして問いかけてくる。


「男が感情をむき出しにするとき、それには2つの理由がある…一つは自身のプライドを傷つけられたこと、そしてもう1つは…自身の恋愛事情を見透かされた時だ」
「…っ!」
「単刀直入に言おう。この“浅田佐夜子”は、実在の人物だ」
「…」
「主人公のヒロイン、浅田佐夜子とこの主人公は結ばれるハッピーエンドになっている…映画の世界なら、お前に都合のいいシナリオは何とでも書けるさ」
「…わかっているなら、もうやめてくれないか」
「オマエは映画の中だけでも、浅田佐夜子と結ばれたかったのだ。それすら否定されたお前は、自らの世界に閉じこもる決心をした…それが今のお前だ」

「…もういいだろう」


そのとおりだ…聞こえるか聞こえないかのような声で、舞島宗史朗は語り掛けてきた。


「君の言うとおりだ…僕は、両親に交際を反対されている女性がいて、その女性と映画の中だけでも結ばれようと思った…それすら否定された僕は、現世に生きる意味をなくして、薬をあおった。たったそれだけのことなんだ」


淡々と自身の身の上を語る宗史朗に、康介は単刀直入に尋ねる。


「…で、俺に映画を作ってほしいのか」


宗史朗からの返事は、すぐに帰ってこなかった。
返事が返ってこなかったことに、多少嫌悪を感じた康介は、言うまいと思っていた言葉を吐き出す。


「卑怯だな、オマエは」
「…なんだって? どういう意味だ!」
「…だって卑怯じゃないか、自分は傷つきたくないからと、こうして眠り続けておいて…他人を動かして自分が理想とする恋愛を実現しようとするんだからな」


再び高鳴り始める、宗史朗の心音。それを確かめようともせず、康介は話を続ける。


「このシナリオ、本当にうまく書けているよ…お前が浅田佐夜子という女性に恋心を抱き、結ばれたいと思ってこのシナリオを書いたことは、よくわかるよ」


宗史朗の心音は、今までで最も高鳴っている。


「だけど、現世でうまくいかないことがあったからって、ここまで引きこもるかね…俺には理解できないよ」

投げやり気味に言葉を投げつける康介に対して、宗史朗はむしろ逆ギレする。


「わかっているなら、もういいじゃないか!」
「…?」
「浅田佐夜子を探してきてくれ! 彼女は大岡山駅の東口から出て少し西に入ったところにある、カフェにいるはずだ…彼女が今も映像の道を追いかけているなら、きっと映画出演のオファーだって快諾するさ!」


康介は立ち上がると、座っていた椅子を蹴り上げる。


「オマエのために、映画を撮るんじゃねえよ!」
「…!」
「オマエみたいなくそわがままな坊ちゃんでも、元気になって欲しいって願う人がいるから、映画を作ってオマエを…オマエを、この世に引きずり戻してこようっていう人がいるんだよ、オマエにその人たちの気持ちがわかるのか?」
「…」
「今のオマエに何度頼まれても、俺はオマエの映画には出ない。それはよくわかった」
「…」
「映画を撮りたけりゃ、オマエが目を覚まして、オマエが自分で映画を撮ればいい」
「…それが…それができれば…」
「できれば、じゃねえよ。オマエ、浅田佐夜子にフラれるのが怖いんだろ? それだけじゃねえか」
「…」
「周りのせい、社会のせい…誰かのせいにしてりゃ、オマエは傷つかなくて済むさ」


…傷つく勇気すらない男のために、誰が汗をかいて頑張ろうって気になる?
鳴り始めたエラーアラートと、それを聞いてドタバタと駆けつけてくる看護師のことなど気にすることも忘れ、その場に大の字になった康介は、いつしか深い眠りにつくのだった。

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